− 移住するきっかけになった勝浦朝市についてお伺いしていきたいと思います。朝市では現在どんなお店を出されているんでしょうか?
富永さん:
今は勝浦朝市でおでんを売っています。ただ、おでんを売ることだけが目的ではなくて、おでんを通して、自分の暮らしと結びつくこの仕事に本気で向き合っていきたいなという想いを持ちながらやっています。 「これに挑戦したい」や、「こういう風に朝市で出店したい」という気持ちを大事にして、お店を出店することは自分の人生において大切な歩みだなと感じています。
− 元々テレワークをしていて、なぜ朝市に出店しようと思ったのでしょうか?
富永さん:
移住してきた目的に、朝市が好きだというところがあったので、移住してきてからも通いたいっていう自分の気持ちがすごくありました。テレワークで働いている際も、始業前の朝6時50分に上総興津駅から電車に乗って、2時間ぐらい朝市で過ごして、9時ぐらいにまた電車に乗って戻ってくる生活をしていました。
朝市の出店者さんとお話をしながら、昔の朝市やその前の世代のお話しを教えてもらったりしながら、お客さんとして通う中で、今度は自分がそこに立ちたい、 出店したいっていう欲に変わっていきました。
でも、当時の状況だと、平日はテレワークで働いて、土日の短い休みの中で出店するのは結構しんどいと思いました。
− 出店するにあったって、他にも悩んだことはありましたか?
富永さん:
何でお店を出すか悩んでいて。 移住してから3ヶ月ぐらい、リモートワークをしていた時に色々考えたんですが見つからなくて。すごいものを出さなきゃみたいな固定概念があったのと、自分でちゃんと作ったものを出さないと認められないのかな、みたいなことを多分思いながら過ごしていました。
結局、そのときは出店できず、海外移住を予定していたので、まずは現地語を学びに2ヶ月間フィリピンに行きました。リモートワークの仕事は、フィリピンに行くために契約終了することを決めていました。
フィリピンで移住体験のような気持ちで生活していたのですが、自営業をやってる人たちに出会ったり、自分が現地語を学ぶプログラムを作って能動的に動いたりしてる中で、自分が創造する、作り上げるということにすごく興味が湧いて、"ないんだったら作ればいい"と思えてきました。
− それからおでん屋さんにはどのように行き着いたのでしょうか?
富永さん:
勝浦の朝市でも作り上げれば自分で出来るんじゃないかなと思えてきたので、まず「朝市に出たい」という気持ちを自分の中で実現させようと、最初の頃は勝浦のひじきとかを仕入れて売ってたりしてみたんです。あとは、飲食もやりたいと思っていたので、同時並行で、その準備をしていました。
そこでより話をするようになったのが、朝市にも出店している削り節屋の鶴屋海産でした。お客さんとしてかつお節を買う中で店主に色々と話を聞いていて鶴屋さんのかつお節の魅力を知って、もっと一緒に関わりたい、かつお節を含めて鶴屋海産という魅力を伝えるにはどうしようと思った時、「おでんかもしれない」とピンと来たのがきっかけで、おでんに辿り着きました。
− 今までの経験が全て繋がっておでんに至ったんですね。おでん屋さんを出店するにあたって、味の追求や手続きなども含め苦労したことはありましたか?
富永さん:
楽しみながらできたとは思うんですけど、苦労したのは出汁の取り方ですかね。いかに手軽に扱える出汁を使っておでんを作れるかと常に研究し続けています。かつお節の種類によって出汁の取り方、時間、えぐみなども全く違うので、何種類も試しました。ちょうどその頃シェアハウスに住んでいたこともあって、シェアハウスの人達に食べ比べてもらって「これ、いいんじゃない?」「自分もこれだったら続けられそう」といった意見をもらったりしていましたね。また、鶴屋さんからも出汁の取り方を聞いたり、「これ使ってみな」といろいろ提供していただいて、試行錯誤しながら今の出汁に辿り着きました。
そのほかに、友達を訪ね東京に行く際には、おでん屋台、商店街のおでん屋さんなど色んなおでんを巡っていました。訪れたお店で「美味しいな」と思ったら「私、今おでん屋をやろうとしてるんですけど、どうやってこの大根柔らかくしてるんですか?」「出汁ってこれとこれ使ってますよね?」という感じでお店の人に話しかけて、仲良くなりながら作り方を教えてもらっていました。浅草の食べ歩きやちょっと高いお店なんかにも行ってみて、お店やその場の雰囲気も味わいつつ、人から学ぶことを繰り返すのはすごく面白かったですね。
− 「自分がやりたいと思ったらやればいい」「何もないんだったら生み出せばいい」という実行力や、コミュニティの中に飛び込んでいく力が本当にすごいなと思います。優子さんの前向きさやチャレンジングなお話はよく耳にします。
富永さん:
そうなんですか? ありがとうございます(笑)
勝浦に「ダイニング清〜さや〜」さんというお店があるんですが、そのお店は出汁がとても美味しくて、お店の雰囲気自体もすごく好きなので、お話ししながらそういった部分も学ばせてもらったりしています。自分だけで出汁を取っていると正直「これでいいのかな?」とよくわからなくなることもあるので、そういう風にちょっと違うものを食べてみることで勉強になるのかなって。私は飲食をやるのが初めてだったし、プロではないからこそ、そこを逆手にとって実験をしながらいろいろやっていますね。
− 朝市では週7日間のうちどういったスケジュールで出店しているんでしょうか?
富永さん:
水曜日は朝市自体がお休みで金曜日と日曜日は自分で休みにしているので、現在は、月、火、木、土で出店しています。他にも予定がある日は休んでいます。
※2025年4月以降は、産休のため暫くお休み予定です。
− 平日と休日での朝市の違いやお客さんの違いなど感じることはありますか?
富永さん:
80店舗ほど登録があって、土日の朝市には40~50店舗ほどの出店があります。私もそのひとつとして出店しているんですが、お客さんもたくさん来るのでかなり賑わっていますね。
私は元々平日の朝市が好きで、移住してきた目的やきっかけも平日の朝市に惹かれたからなんです。私のお店はおでんを食べながらお話に来てくれたり、日常の一部として、「生き方」に触れ、人の温かみを感じられる場所に出来たらと思ってやっています。朝市と暮らしや生き方、ってすごく繋がっているなと感じています。私だけではなく、鶴屋さんの歩んできた人生、昔の朝市の話もお客さんにお話ししています。
売上で言えばもちろん土日のほうがいいんですが、人との距離感であったり、話す内容としても平日のほうが濃い時間を過ごせるのでとても楽しいし、自分と向き合う時間になるのが貴重でもあります。特に平日には、地元の朝市の常連さんが、声をかけてくれたり、お客さんへ勧めてくれたりもして、とっても助けてもらっています。また、平日は出店者同士でのコミュニケーションも測れるし、自分としても心の余裕を持って関わることができるのがすごく楽しいです。
− 出店者との関わり合いについて、何か印象的なエピソードはありますか?
富永さん:
出店者同士で何気ない日常の会話を話せたりするのは、すごく楽しいことで。特に恵まれたなと感じるのは、朝市の出店する周りの方々です。 自分のお隣さんたちが家族のように本当に親身になって接してくれていることです。
お隣さんに七輪で焼いた手作りのお餅をもらって、お孫さんのお話しをしたり、「今日のおやつ〜」とお菓子を交換して井戸端会議のように、最近の日常をお話しすることが 私にとっての朝市の日常で。そういう所に幸せを感じています。その交流がすごく貴重だし、朝市ならではの醍醐味だなと感じています。
私が朝市に出店してからようやく2年になるんですが、2年間ずっと熱いおでんを出してきました。暑い夏には冷たいおでんもやりたいと思ったんですが、衛生的観点からその許可が降りず、最終工程で温かいものじゃなければ出すことができないという部分があって難しかったんですね。自分も少し考え込んでいる時に、「今は暑いし、冷たいおでんの方がいいんじゃないの?」と周りの方々も心配して言ってくれていたんですが、それが自分の中で「どうしたらいいんだろう」と迷いになってしまって。そういうとき、あえてお隣さんたちは何も言わなかったんですよね。そのことが私にとってはすごく嬉しくて、夏が終わったときに「見守っててくれてありがとう」って言いにいったんです。そうしたら「自分の信じたものをやればいい、何を言われても自分のやりたいことをやればいいんだ」とお隣さんたちが言ってくれたから、それがすごく心に残って。そういうことを真剣に伝えてくれたのが、すごく印象的でした。
− テレビや新聞などのメディアにもよく出演されていますが、その後の反響はいかがですか?
富永さん:
お店を知ってもらうきっかけになっている部分はすごくあるなと感じています。「この前、新聞出てましたよね?」みたいなところから喋れたりもするし。特に、市役所の方々が計画してくれる移住イベントでは、メディアで見た方が結構来てくれ、おでんを食べに来るというよりは「移住について詳しく教えてください」と質問してくれます。そういう話ができるのもすごく面白いです。
また、定期的にメディアから取材をしていただけることで、このときはこういう気持ちだったんだと自分を振り返る機会にもなっていて、とてもありがたいです。朝市のどんなところに魅力を感じているのかを振り返ったり、こういうところを自分は大切にしているんだということに気づけるきっかけになっているので、お客さんからの反響ももちろんですが、メディアを通して自分自身への改めての気づきになる部分が1番大きいかもしれないですね。
− 富永さんがこの2年間朝市を見てきて変化に気付いた点や、今後朝市がどうなっていったらいいと思うかを聞かせてください。
富永さん:
変化で言えば、やはり高齢化が進んでいるので今まで自分で運転して朝市に来ていた人なんかも来れなくなっちゃったりしているんです。なので、平日の朝市は最初に比べると出店する方々が多分少なくなっていると思うんですよ。ただ、平日の朝市がすごく楽しかったと喜んでくれるお客さんも中にはいて、出店数は少なくて寂しくなった部分もあるけれど、自分で楽しみ方を見つけてくれるお客さんも増えたなと思っています。
自分の変化みたいなところで言うと、お客さんとして来ていた時と比べると、自分自身も出店者となり、出店者さんとの距離がとても近くなり、繋がりが深くなっていってるのを感じます。例えば、自分が困っていることをシェアすると助けてくれたり、「自分がやりたいと思ったことを常に信じてやった方がいいよ」なんて言葉をかけてもらったり。お守りじゃないんですけど、そういうことを言ってくれる人たちが周りにいてくれるのはとても心強いし、すごくいい変化だと感じています。私がお客さんだったときはお客さんと出店者という関わりだったけれど、出店者同士の関わりになってから同じように頑張っている人たちが自分を助けてくれたり、お守りのようになってくれたりするのは、すごくいい結果になったと思っています。
− 富永さんがおでんをやるとなったときのかつお節の仕入れ先である鶴屋海産さんの反応はどうでしたか?
富永さん:
「めっちゃいいじゃん!」って言ってくれましたね。私がずっとお客さんとして鶴屋さんのかつお節を買っていたので、先ほども言った通り、「おでんやろうかなと思ってる」と伝えたときも「これで試してみるといいよ」と実験的にいろんなかつお節を提供してくれたり、すごく助けてくれました。鶴屋さんご夫婦もいろいろな人との繋がりを持っていて、改めて繋がりってすごく大事だなと思わされましたね。
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