Episode❷  養蜂業編
 
蜂蜜に加熱をしていないところが1番のこだわり

 

養蜂家になったきっかけについて教えてください。

  中林さん

旦那とは御蔵島という島で出会ったんですが、彼も都会が好きじゃなくどちらかというと田舎に住みたいほうでした。

 

最初は海の近くに住みたかったので、海の仕事をやろうと思っていたんですが、御蔵島で暮らすうちに、私がやりたいのってヤギを飼ったり、畑を耕したり、カフェをやったり、そういうイメージがバーっと浮かんできて、「これ、海じゃなくて山だな」ってなったんです。それで、旦那とも「海じゃなくて山がいいんじゃない?」なんて話をしたんです。

 

そうしたら、昔ドキュメンタリー番組で脱サラした養蜂家のおじさんが、「こんなに楽で稼げる仕事はないのに、なんで誰もやらねえんだ」みたいなことを言っていたのを旦那が思い出して。「山で暮らすなら、養蜂家になろうかな」と、養蜂を学び始めたのが最初のきっかけでした。

 

私は、生き物は好きだけど、蜂は好きでもなかったし、蜂蜜も特別好きでもなかったので、最初は全然興味もなかったんです。でも、いざ踏み込んでみたらすごく面白い世界でした。

 

− 今は蜂蜜作りがメインですか?

  中林さん

基本的に、メインは蜂蜜を作って販売していて、たまに蜂自体も売ったりします。

 

勝浦に2023年にオープンした「いちごガーデン勝浦」さんの蜂は、うちの子たちを使ってもらっているんですよ。苺は蜂がいないと綺麗な形にならないので、受粉用のハウスで蜂が受粉のお手伝いをします。あとは、蜂を飼ってみたいという方に売ることもありますね。

 

− 飼ってみたい方がいるんですか?

  中林さん

結構いますね。例えば、リタイア後に移住してきて、「養蜂をやるのが夢だった」という人に、蜂を売ったりします。

 

− 中林養蜂の蜂蜜の特徴などを教えていただけますか?

  中林さん

中林養蜂では、蜂蜜に加熱を一切していないところが1番のこだわりです。本当に採ったそのままの状態から、ゴミを丁寧に濾過しただけの状態の蜂蜜なので、味も香りも栄養素も1番いい形でお届けするために手間暇をかけて作っています。

2023年、夏の蜂蜜を採蜜している様子。

 

−  養蜂をする上で大切にしていることはありますか?

  中林さん

山で暮らすようになってから、ひとつのことだけを考えるんじゃなく、蜂のことも、山のことも、自然のことも、人のことも全て繋がっているなと感じるようになりました。蜂も飼ってはいるけども、半分以上は勝手に生きてくれているようなものなので、暮らす環境をよくすることが大事なんです。

 

うちの場合は山に囲まれているので、山の環境を良くすれば蜂の住環境も良くなるし、そうなれば蜂も元気になって、美味しい蜂蜜が採れるだろうという気持ちを大切にしながらやっています。

 

−  養蜂家を始めるにあたって、近隣の方の反応などはどうでしたか?

  中林さん

まず、始めるときに青年就農の給付金を貰って始めたんですが、受給する条件が、地域住民の人たちと「どういう風に農業をやるか」を話し合って、その仲間に入るということだったんです。なので、近隣の農家のおじさんたちに「これから始めるのでよろしくお願いします」みたいな挨拶周りをしました。そうしたら皆さん温かく応援してくださって、最近でも「贈り物にしたいから蜂蜜持ってきてくれ」なんて連絡があったり、今も昔も気にかけていただいています。

 

−  事業を始めるにあたり、最初の手続きなどはどのようなことをしましたか?

  中林さん

まず、ミツバチを飼うために飼育届けが必要なので、届け出をしました。

養蜂は畜産業に入るということで、青年就農給付金が適用されるかどうか、移住前に勝浦市役所へ確認しに行きました。そこで「適用されますよ」と言ってもらえたので、その後の動きがスムーズでした。

 

給付金の手続きをした後は、農地を取得するために農家にならなくてはいけなかったので、その手続きをしましたね。また、日本養蜂協会というものがあり、そこに入っていると物資を貰えたり、情報誌が定期的に届くなどの特典があったので加入しました。

 

−  養蜂家のお仕事の1年の流れを教えていただけますか?

  中林さん

ざっくりとですが、梅の花が咲き始める時期が始まりで、その時期になると蜂たちが卵を産んで、春に備えてやる気を出し始めます。ゴールデンウィーク前後に1番最初の春の百花蜜が取れて、梅雨頃に2回目の初夏の百花蜜が取れます。7月、8月には夏の百花蜜が取れて、その後の冬の間は活動しないです。来年の春に蜂たちがまたいい状態でスタートできるようにお世話をしながら、また春を迎えるというのがおおまかな流れです。

 

−  春、初夏、夏に取れる百花蜜には、それぞれどのような特徴がありますか?

  中林さん

基本的には、春から夏にかけてどんどん色が濃くなっていきます。

 

春の蜜は、本当に色が薄くて綺麗で、菜の花や山桜の蜜が入っており、花の香りがぶわっと香るような蜂蜜で、1番人気があります。

 

初夏の蜜は、少し黄色っぽい色味になり、 クローバーがメインの蜜で、すっきりとした清涼感のあるような味の蜂蜜です。ヨーグルトに良く合いますね。

 

夏の蜜は、とても色が濃く、苦手な人もいます。苦味が少しあるんですが、黒糖っぽい感じというか。フルーティな味で、コアなファンが多い蜂蜜です。

 

−  中林養蜂さんの蜂蜜はどちらに行けば購入できますか?

  中林さん

かつうら商店やおさかな村に置かせてもらったり、市内のいろんなカフェにも置かせてもらっています。

中林養蜂が作る非加熱の生はちみつ。この日は勝浦朝市に出店し、初夏の蜂蜜と夏の蜂蜜が並んでいた。

 

−  養蜂のお仕事をしていて大変なことはありますか?

  中林さん

自然相手の仕事なので、予想と全然違った天気や気候が来ちゃったりすると、全く蜜がれない年があったりするんです。私たちが世話をしているけど、半分は自分たちで生きているので、完全にコントロールしきれないところが大変ですね。酪農家さんの場合は、毎日餌やりをしなきゃいけないなどの大変さがありますが、そことはまた違った管理しきれない分、どうすることもできない大変さみたいなものはあります。

 

あと夏場の作業が暑いです。 

 

−  養蜂家としての今後の展望を聞かせていただけますか?

  中林さん

養蜂って、カテゴリー的には畜産業というか、家畜と同じなんです。野生の生き物のように見えて人間が管理しているので、人間都合で彼らを振り回している分、そこで起きる問題みたいなものがすごくたくさんあるんです。その辺りのバランスを探りながら、出来れば農薬を使わないオーガニックに挑戦しているところではあります。

 

ただ、世界的にも問題になっている"ミツバチヘギイタダニ"というダニが蜂に寄生してしまうのを避けるため、それを駆除するために薬を使わざるを得ない現状があります。それを、どうにか薬を撒かずに駆除できるよう、何年も前から少しずつ研究をしたり、減らすための作業をしています。ゆくゆくは、農薬を一切使わず、山自体もその分元気になってくれたら、それが1番いいなと考えているので、終わらない夢物語ですけど、できるところからコツコツやっていきたいと思っています。 

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