データから読み解く「勝浦が涼しい理由」
縦に伸びる千葉県房総半島の東側、外房エリアに勝浦は位置しています。
なぜ、「特に勝浦だけが涼しいのだろうか」 「客観的視点で勝浦が涼しい理由を知りたい」
そこで、勝浦の気温を観測している勝浦特別地域気象観測所の管轄である、銚子地方気象台の予報官さんに、夏季の勝浦の気温について教えていただきました。
勝浦の特徴
1.勝浦は真夏日が特に少ない
勝浦は千葉県内の他地域に比べて夏涼しいといわれています。
次の図は、千葉県内の気象観測所の平年の真夏日の日数です。北西部が多く、勝浦特別地域気象観測所(以下、勝浦)と銚子地方気象台が特に少なくなっています。
[統計期間]
我孫子:2010~2020年、
香取・船橋:1999~2020年
成田:2003~2020年
木更津:2006~2020年
その他の地点:1991~2020年
2.勝浦は南南西の風が卓越
次の図は、勝浦の7月と8月の平年の風配図(風向の頻度)です。 勝浦では、南南西の風が卓越し、南に開けた湾に面しているため、 海風の影響を受けやすい事が分かります。
3.勝浦は南南西の風が入りやすい
次の写真の〇印は勝浦(勝浦特別地域気象観測所)の場所ですが、海から近く、かつ目の前(南側)が崖となっており、南南西の海風が入りやすくなっています。
勝浦の夏が涼しい要因について
1.海風
海は大気と比べて熱容量が大きく、温まりにくく冷めにくい性質があります。夏は一般的に大気より海面水温が低い場合が多く、海から陸地に向かって涼しい風が吹き込みます。
特に、勝浦市付近は、南よりの風が吹く際、下層の冷たい海水が持ち上げられる(沿岸湧昇)効果により、周辺より海面水温が低くなることがあり、他の地域よりもより冷たい風が吹き込みやすい地勢となっています。
2.ヒートアイランド
近年、温暖化の進行に伴い都市部のヒートアイランド現象も顕著になってきていますが、勝浦市は平地が少なく、森林が多いことから、ヒートアイランド現象がそれほど顕著に現れない地域となっています。
⇨上記1.および2.に記載した複合的要因により、勝浦では夏が涼しい傾向になっているものと考えられます。
この他、黒潮の流路による影響も考えられますが、現時点では流路と勝浦付近の海面水温との詳細な関係はわかっていません。
2022年が涼しかった理由について
◆ 2022年7月1日の気象状況
図1は、2022年7月1日9時の日本付近の気圧配置です。2022年の関東甲信地方の梅雨明けは7月23日頃(確定値)ですが、6月下旬から7月はじめにかけて関東甲信地方は晴れて気温が上昇し、梅雨の中休みとなりました。この日、梅雨前線は東北地方北部にあり、関東地方は、山沿いを中心に午後はにわか雨 となった所もありますが、太平洋高気圧に覆われて晴れていました。関東地方では猛暑日となった地点が多く、熊谷など最高気温が40度以上となった地点も ありました。 図2は、2022年7月1日14時の千葉県付近の気温と風向、風速です。北部の県境付近を除きおおむね南よりの風となり、気温は内陸が高く、沿岸部は 比較的低くなっており、勝浦は特に低くなっ ています。この日の勝浦の日最高気温は、27.7度でした。
▲図1
▲図2
◆ 旬平均海面水温2022年7月1日-10日(気象庁HP)
例年、千葉県の太平洋沿岸の海面水温は沖合を流れる黒潮域に比べ低いのですが、2022年の6,7月は特に低くなっていまし た。南よりの風が続いたため、前出の沿岸湧昇効果が強く出たと考えられます。2022年7月上旬の平均気温は、梅雨の中休みで例年より晴れた日が多く、銚子、千葉、館山では平年より高くなりました が、勝浦は平年並みでした。理由の一つ として、勝浦付近の海面水温が低く、影響を受けやすいことが考えられます。
▲海面水温旬平均
▲海面水温平均差
▲海面水温平均値
これらの図は、人工衛星とブイ・船舶による観測値から解析された海面水温及びその平年差です。平年値は1991年から2020年の平均値です。水温及び平年差は、図の右にあるスケールで色分けされています。内湾域等は、薄い灰色で示しています。また、海氷のために海面水温のデータがない海域は、灰色の網掛けで示しています。図は、後から入手した観測値によって更新され ることがありますので、最新の資料をご利用ください。
◆ 県内の日最高気温の極値(2023年10月5日現在)
※図解・データ資料等、気象庁HPより引用。https://www.jma.go.jp/jma/index.html